販売目的で海外からお酒を輸入する場合、通関手続き完了までに検疫所や厚生労働省へいくつかの手続きを済ませなければなりません。特にアルコール飲料を扱うのであれば、利用目的に応じて免許の取得も必須となります。
本記事では、お酒の輸入から国内流通までの一般的な流れと必要な手続きについてまとめました。
また、品質管理のために気を付けるべき注意点も解説します。
目次
お酒を輸入するときの一般的な流れ
お酒を輸入するとき、一般的に以下のような流れで手続きが行われます。
- 1.通関業者へ輸入通関手続きを依頼
- 2.輸入商品を保税地域に搬入
- 3.食品等輸入届出書の提出、通関手続き
- 4.厚生労働省における検査・検疫
- 5.税関における審査・検査
- 6.ラベル貼付などの流通準備
- 7.搬出され国内配送
アルコール飲料は輸入食品のなかでも「その他の食品」に分類されるため、農林水産省での確認工程はありません。
販売目的でお酒を輸入する場合、厚生労働省検疫所の食品等輸入届出受付窓口に対して、食品等輸入届出書を含む書類の提出が義務付けられています。
このほか、厚生労働省では添加物等の検査をするために、お酒を持ち出し、検査機関または検疫所で検査を行う場合もあります。輸入元が同じ、かつ輸入実績や検査実績のある商品を取り扱う場合、事前申請をすることも書類審査のみで済むこともあるようです。
検査によって輸入不可となった場合、状況に応じて該当製品を滅却したり積戻しの処理をしたりします。
お酒の輸入販売に必要な手続き
お酒の輸入にあたっては、通関手続き以外にもさまざまな工程を踏む必要があります。輸入販売のために行わなければならない手続きは、次の4つです。
- ①食品等輸入届出書の提出
- ②食品等輸入届出に関連する資料の提出
- ③表示方法の届出の提出
- ④酒類の販売業免許の取得
それぞれ詳しく見てみましょう。
①食品等輸入届出書の提出
海外からお酒を輸入し販売する場合、安全性確保の観点から厚労省の食品衛生法第27条に基づき、輸入者に対して食品等輸入届出書の義務が課せられています。この書類は、輸入申告より先に検疫所へ提出しなければなりません。記載すべき内容は次のとおりです。
- 品名
- 数量、重量
- 輸入者名
- 生産国
- 製造者名
- 輸出者名
- 積込港 など
提出先は、通関場所を管轄する検疫所の食品監視課です。輸入相談窓口が設置されている検疫所もあるため、お酒など食品類の輸入が初めての方は助言を求めるのも良いでしょう。審査の結果、必要に応じて検査が実施され、合格すると食品等輸入届出済証の発行となります。
②食品等輸入届出に関連する資料の提出
食品等輸入届出書と併せて、検疫所に対し次の資料も提出する必要があります。
- ・原材料、成分または製造工程等に関する説明書
- ・衛生証明書(※)
- ・試験成績書(※)
※必要に応じて提出
審査で確認されるのは以下のような事項です。
- 食品衛生法の規定した製造基準に適合しているか
- 添加物の使用基準は適切か
- 有毒有害物質が含まれていないか
- 過去に食品衛生上の問題がなかったか
ワインなどのアルコール飲料を輸入する場合は、「食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)」の遵守が義務となります。原材料や製造工程表の内容には必ず目を通しておきましょう。
③表示方法の届出の提出
「酒類の保全と酒類業組合等に関する法律」に基づき、輸入した酒類の容器の見やすいところに定められた事項をラベルなどで表示しなければなりません。輸入した酒類を保管してある保税地域の管轄税関に対し、この表示方法に関する届出を行います。表示方法届出書とともに酒類販売業免許証(または通知書)の写しを提出して、確認を受けましょう。
表示が義務付けられている項目には、次のようなものがあります。
- 名称(品目)
- 内容量
- 添加物
- L-フェニルアラニン化合物の含有(含まれる場合)
- 遺伝子組み換え(対象農産物が含まれる場合)
- 原料原産地名
これらの必要項目のほか、用いる文字は背景色と対称となる色であること、日本産業規格に規定する8ポイント以上の活字であることなどが定められています。
④酒類の販売業免許の取得
酒類の販売を行うためには、酒税法によって定められた酒類販売免許の取得が必須です。販売場の所在地を管轄する税務署に酒類販売業免許申請書を提出し、認可を受けましょう。免許取得要件として、個人・法人問わず経営者に経営経験があること、酒類販売に関する知識があることなどが挙げられます。
なお酒類販売業免許は「酒類卸売業免許」と「酒類小売業免許」の2種に分類可能です。お酒の販売対象や販売方法によってもさらに細かく分類されるため、あらかじめ確認しておきましょう。
酒類卸売業免許
酒類卸売業免許は、酒類販売業者・酒類製造業者に卸売りするための免許です。一般消費者や飲食店、酒場への販売は対象としていません。
さらに、販売できる品目や販売方法によって次のように8つに区分されます。営業形態に応じた免許を取得しましょう。
- 全酒類卸売業免許
- ビール卸売業免許
- 洋酒卸売業免許
- 輸出入酒類卸売業免許
- 店頭販売酒類卸売業免許
- 協同組合間酒類卸売業免許
- 自己商標酒類卸売業免許
- 特殊酒類卸売業免許
輸入したお酒を卸すには、上記のうち輸出入酒類卸売業免許が必要になり、輸出・輸入で免許は別々です。また、他者が輸入した酒類を販売する場合、扱う酒類の種類によって取得すべき免許は異なります。
酒類小売業免許
酒類小売業免許とは、消費者や飲食店、飲料店、菓子製造業者に対して酒類の小売を認める免許です。酒類販売業者や酒類製造業者に対して販売(卸売り)はできません。酒類小売業免許は、次の3つに区分されます。
- 一般酒類小売業免許
- 通信販売酒類小売業免許
- 特殊酒類小売業免許
輸入したお酒を一般消費者に売る場合は、一般酒類小売業免許を取得しましょう。なお本店と違う販売場がある場合、販売場ごとに許可を受ける必要がある点に注意が必要です。
また、料飲店(飲食店)に販売する場合も「酒類小売業免許」が該当します。これはお酒の最終消費者が、お店で注文し消費する人、またはお酒を購入し消費する人になるためです。
【事業内容別】輸入したお酒の販売に必要となる免許
ここでは必要となる免許とお酒の販売方法例を確認してみましょう。
自分が輸入したお酒を自社の飲食店で飲料として提供する場合は、免許は不要です。ただし、飲料としてだけではなくお酒を販売する場合は、免許が必要になるため注意しましょう。
また、他の人が輸入したお酒を販売する際は、取り扱うお酒の種類に応じた免許が必要になります。
海外のお酒を輸入する際の注意点
海外のお酒を輸入するにあたっては、いくつかの注意点があります。販売までには品質管理や流通加工といった工程を踏むことも念頭に置いたうえで計画を立てましょう。
利用目的に応じて必要な免許を確認する
上記でも触れたとおり、輸入した酒類の利用目的ごとに適した免許を取得しておく必要があります。万が一、必要な免許を持たないままお酒を販売してしまった場合、ペナルティが課される可能性もあるでしょう。
免許を正しく活用するには、具体的な事業計画を立てたうえで、自分が持っている免許の権限を明確に理解しておくことが大切です。もちろん取得要件に満たない場合、免許は交付されません。
酒類販売免許について疑問があれば、酒類指導官の在籍する税務署へ相談(要事前予約)することをおすすめします。
輸送・管理にあたって温度管理が必要
酒類のなかでも、ワインは20度付近で温度管理ができていないと品質に大きく影響します。そのため、海外から輸送するときは通常コンテナではなく、温度管理ができるリーファコンテナを活用するのが一般的です。さらに日本到着後も、定温管理が可能な保税蔵置場での保管が望ましいと言えます。
また、クラフトビールの扱いにも注意が必要です。通常ビールは熟成後にろ過・熱処理を行いますが、クラフトビールの場合は酵母を生かしておくためにろ過を行いません。したがって、品質維持のためにはより低温での管理が必要になるでしょう。
流通加工や管理方法を考える必要がある
酒税法に則り、輸入酒類の販売時には容器の見やすいところに日本語表記のラベル表示を行わなければなりません。このような作業を物流倉庫内で行うことを「流通加工」と言い、輸入手続き後すぐに販売できるわけではないことを覚えておきましょう。
また、海外から輸入する商品は、日本国内にある商品と比べると到着から国内流通までにリードタイムがかかります。同じ商品であろうと輸入時期によって賞味期限が異なります。同商品だからといってまとめて管理していると、気付かないうちに期限が切れてしまう可能性もあるため、管理方法にも注意しましょう。
まとめ
海外から輸入したお酒を販売する場合、輸入通関手続きのほかに食品等輸入届出書の提出や表示方法に関する届出が必要になります。手続き内容に不安がある方は、相談窓口の利用も検討してみてください。
また、お酒の販売目的に合わせた免許も忘れずに取得しておきましょう。扱う酒の種類などによって免許は細分化されているため、あらかじめ確認しておくのがベターです。
さらに輸入酒類を扱う際の注意点として、保管時の温度管理を挙げました。浜松委托運送が所有する自社の保税倉庫は、冷凍倉庫・定温倉庫を備えています。保税地域内で徹底した品質管理ができるほか、ラベル貼りなどの流通加工も可能です。
倉庫内では賞味期限ごとに商品を分けて保管しているため、在庫管理がしやすく、賞味期限切れのリスクから大切な貨物を守ることができます。
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