生活様式の変化とともに、EC市場の規模は年々拡大しています。それと同時に、物流業界では労働力となる人手不足問題に直面しました。この解決の糸口となるのが「物流DX」とされています。
物流DXとは、機械化・デジタル化によって物流のあり方を変革することです。DXはデジタルトランスフォーメーションの略称で、物流DXの導入には機械化・デジタル化による業務の効率化のほか、さまざまなメリットが期待できます。
本記事では、物流DXの導入によって改善できることや、取り入れる際の課題について見ていきましょう。
目次
物流DXとは
国土交通省は、2021年に発表した「最近の物流政策について」内で、物流DXを「機械化・デジタル化を通じてこれまでの物流のあり方を変革すること」と定義づけています。
物流DXの狙いは、物流事業の生産性向上に向けて、アナログな工程をデジタル化し、業務効率を上げることです。また、デジタル化によって荷主や物流事業者間のデータ連携を図ることで、業務全体の生産性向上にもつながるでしょう。
日本政府が取り組む総合物流施策大綱では、以下の2点をDXの目的としています。
- 情報・コストなどを「見える化」する
- 作業プロセスを単純化・定常化する
主な取り組みは、物流分野の機械化と物流のデジタル化の2軸です。物流分野の機械化では、トラックの隊列走行やドローン配送など、コストを抑える自動化を図ります。物流のデジタル化では、手続きの電子化や点呼や配車管理のデジタル化など、業務の効率化が主な取り組み内容です。
物流業界ではこれらの取り組みを推進するべく、上流から下流までのオペレーションの改善や働き方改革が求められています。
物流のDX化が求められている背景
物流のDX化が求められる背景には、物流需要と供給能力のバランスが崩れていることが大きな要因として考えられます。より細かく分解すると、次の要因が考えられます。
- EC市場の成長
- 物流業界の労働環境と人手不足
- クラウドサービスの利用率の向上
- 物流の2024年問題
それぞれ詳しく見てみましょう。
EC市場の成長
物流DXが求められる背景の一つとして、コロナ渦でEC市場が成長し、個人宅への小口輸送が増えたことが挙げられます。EC市場の成長は、年平均で10%以上に達し、今後も小口配送の増加が予想されるでしょう。
小口配送が急増した場合、トラックの積載率が低下したり、倉庫内の在庫管理が複雑になったりする可能性があります。結果として業務効率が総合的に落ちかねないことから、DX化の必要性が高まりました。
物流業界の労働環境と人手不足
労働環境と人手不足も、物流DX化が求められるようになった要因です。物流業界は、ECの成長や取扱量の増加によって人材が必要なのに対し、トラックのドライバーは不足している状態にあります。その原因としてドライバーの高齢化や低賃金での長時間労働などが考えられるでしょう。
トラック運送業の労働時間は、全職業の平均労働時間よりも2割長く、賃金は全産業平均より1割~2割ほど低いのが現状です。トラックの燃料コストの高騰や価格競争の兼ね合いもあるなか、コストアップ分の転嫁が進まず、労働時間に対して賃金が上げにくい側面もあります。
こうした現状から人手不足の深刻化が予想されるため、DX化による業務の自動化が急がれているのです。
クラウドサービスの利用率
DX化を推進する理由には、クラウドサービスの利用率も関係しています。物流業界のクラウドサービスの導入率は6割ほどで、他の産業に比べると低い水準です。
また、総務省「令和4年の通信利用動向調査」によると、クラウドサービスの利用内容は「ファイル保管・データ共有」の割合が64%なのに対し「生産管理・物流管理・店舗管理」の割合は12%と、こちらも低水準になっています。
このように、物流領域ではデジタル化が進んでいないものの、国土交通省の調査によれば「デジタル化の意向がある」と回答した企業の割合は50%前後であり、デジタル化を進めたいけれど進められない状態であることがわかりました。物流領域となる配送から流通加工までの業務でクラウドサービスの利用を高めるためにも、デジタル化をどう進めていくのかが課題になるでしょう。
物流の2024年問題
DX化の背景には、物流の2024年問題も関係しています。2024年問題とは、時間外労働時間の規制の法律によって発生する諸問題のことです。
これまでドライバーの時間外労働については上限規制がなかったものの、2024年からは時間外労働の上限が年間960時間までと規定されることになりました。この規制で、残業代が減ることによるドライバーの賃金の減少、ドライバーの離職やトラックの稼働時間の減少による輸送量の減少が予想されています。
ドライバーの賃金が減ることで輸送業界の人材不足の加速が考えられます。運びたいものが運べなくなる可能性もあるでしょう。これらの課題を解決するためにも、物流業界全体でのDX化を進める必要があるのではないでしょうか。
物流事業者では、まだまだ紙やファックスなどを利用したアナログの業務や属人的な業務が存在します。人材不足の環境下、物流DXは生産性向上に向けた極めて有効な手段です。
物流の2024年問題について詳しくはこちらのページもご覧ください。
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物流のDX化を進めることで、具体的には何が改善・解決できるのでしょうか。
- 物流や倉庫管理における業務の機械化(効率化)
- 情報の入力工数の削減と情報の有効活用
- 情報のデジタル化によるコスト削減と課題分析
- 配送ルートの可視化・自動化
効率化が見込まれる業務について見てみましょう。
物流や倉庫管理における業務の機械化(効率化)
物流や倉庫管理における業務を、機械化・自動化によって効率化できます。たとえば、倉庫内の作業においても、バーコードシステムの導入により、入出庫作業や検品作業を短時間での作業が可能です。また、AGV(自動搬送ロボット)が商品を移動させることで、ピッキング業務での負担を減らせます。
さらに物流業務の効率化の例として、トラックの隊列走行やAIや衛星通信を介して海上輸送を行う自動運搬船などの運用が期待されています。
倉庫内作業をはじめとする、物流に関わる業務の業務効率化によって、人材不足やマネジメントの課題を改善できる可能性も広がるでしょう。
情報の入力工数の削減と情報の有効活用
在庫管理システムと入出庫管理システムの導入により、情報の入力工数の削減および情報の有効活用につながります。これらのシステムで倉庫内の在庫を一括管理できれば、一度の入力ですべてのシステムに情報が反映されるため、わざわざ手入力で打ち込む必要がありません。入力工数を削減するだけでなく、人手による打ちミスも減らすことができます。
さらに、さまざまな業務をDX化することで、データを連携させて、情報を有効に活用することもできます。入力工数の削減とデータ連携による情報の有効活用によって、作業の効率化が目指せるでしょう。
浜松委托運送では、DXへの取り組みとして独自の物流倉庫管理システムを活用しています。誤出荷を防げるほか、ABC分析に基づいた在庫管理で出荷にもスムーズに対応可能です。
WMSについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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物流DXによって情報をデジタル化することで、現状の可視化と課題の分析がしやすくなるでしょう。伝票業務をデジタル化することで、従来利用していた紙伝票が不要になります。その結果、保管スペースの削減や紙代を削減できます。また、デジタル化によってデータの共有や分析、活用が容易となり、生産性の向上やコスト削減につなげることができます。
紙のデータをすべてデジタル化することで、情報の整理と確認も簡単になります。状況の分析も容易になり、今後の課題や対策が行いやすくなると同時に、人件費の削減も可能になります。
配送ルートの可視化・自動化
物流のDX化によって、配送ルートの可視化・自動化も可能です。動態管理システムと配線管理システム同士を連携させることで、運送車両の現在地や配達状況をリアルタイムで確認できます。管理者はドライバーに対して、そのときの状況に合った指示をしやすくなるでしょう。
また、AIによるデータ分析により、天候や道路情報に合わせた適切なルートを割り出すこともできます。デジタル化による配送ルートの可視化・自動化によって、効率よく配送を進めやすくなるはずです。
物流DXに取り組むことの成果は効率化やコスト削減だけではありません。デジタル化によって現状を可視化し、関係者が共通認識のもと課題解決に取り組める土台ができることにあります。
物流DXに取り組む際の課題とポイント
物流DXによるデジタル化で業務効率を上げられる一方で、取り組む際にはいくつかの課題とポイントもあります。課題をふまえたうえで、どのように活用していくのかが重要になるでしょう。
データや輸送箱といった物流の標準化
物流DXの第一の課題は、データや輸送箱をはじめとする物流の標準化です。物流業務は複数の拠点で成り立っており、それぞれの現場で独自のノウハウが使われています。そのため作業内容にも違いがあり、DX化によってそれぞれの業務に支障をきたすかもしれません。
データの取り方が独自のものであれば、デジタル化したときに一部のデータが取得できない可能性があるでしょう。データの標準化をしてはじめて、各拠点での情報共有に活かせます。
輸送箱についても、現場によって違うサイズを使用していれば、自動化の導入は困難です。これらの課題を解決するためにも、物流業のデータや輸送箱の標準化が求められます。
導入システムと現場状況の調整
2つ目の課題は、導入システムと現場状況に合った調整が必要になることです。DX化を進めていくにあたり、導入システムが現場の作業内容とかみ合わない可能性もあります。その際、導入システムを変更するのか、現場に合わせたシステムに変更するのかを判断しなければなりません。
基本的には、現場業務の見直しといった点もふまえて、システムに合わせた現場の構築が必要となってきます。
浜松委托運送では、お客様に合わせて倉庫管理システム(WMS)をカスタマイズしています。パッケージに当てはまらない物流にも柔軟に対応できることが大きな特徴です。この柔軟性を活かし、販売方法の幅を広げるお手伝いもできます。
経営陣と現場が連携して取り組む必要がある
3つ目の課題は、DX化における経営陣と現場の連携です。
物流のDX化について経営陣が必要と感じていても、現場側は必要性がわからず業務を変更したくないと感じている可能性があります。これは、デジタル技術に頼らなくても荷主に対応でき、業務が成立するためです。そのなかで強引にデジタル化を進めてしまうと、トラブルにも発展しかねません。
経営陣はDX化の目的を明確にし、現場の従業員に対して導入の必要性を伝えたうえで連携していく必要があります。
IT人材の確保と育成も必要
4つ目の課題は、IT人材の確保・育成が必要になる点です。物流業務をDX化していくには、拠点や倉庫、企業全体を多角的に分析できる人材が求められます。
外部からIT専門の人材を確保する方法もありますが、円滑な連携をとるためにはコミュニケーションを重ねる必要性が出てくるでしょう。DX化に素早く対応するためには、社内にIT人材を確保し、育成まで進めておくことが望ましいと言えます。
物流DXを進めるに際して、業務の標準化は大切なポイントです。物流の現場の属人的な業務を標準化しデジタル化することで、生産性の向上やデータの蓄積による将来的な価値創造が可能になります。
物流DXまとめ
物流DXを導入すれば、物流におけるさまざまな課題を解決できる可能性があります。しかし、現状のデジタル導入率は低く、DX導入に向けた課題も少なくはありません。
物流業界をより発展させるためにも、DX化は必要不可欠です。現状できることから取り組んでいく前向きな姿勢が大切になるでしょう。
浜松委托運送では、自社開発の倉庫管理システム(WMS)を使ってDX化を推進してきました。現場に合わせたシステムを設計し、作業の効率化を行っています。
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