2024年問題によって、トラックドライバーの時間外労働時間に上限が設けられ、今まで以上に長距離輸送が難しくなることが考えられています。この記事では、2024年問題で変化する長距離輸送の実情と、物流関連企業への影響、今後の課題などを紹介します。
2024年問題後も効率的に長距離輸送を行うためには、運送会社だけでなく、荷主企業など関連企業との連携も不可欠です。ここでは長距離輸送を効率的に行うための方法も解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
物流の2024年問題によって長距離輸送はどうなる?
時間外労働時間の上限が決まることで、1日の輸送距離や受注量などに影響があるとされています。また、ドライバーにとっても収入や休憩の取り扱いなど変化があります。
具体的にどのような影響や変化があるのかそれぞれ確認していきましょう。
1日に輸送できる距離が少なくなる
働き方改革関連法によって、年間の時間外労働時間の上限は960時間になります。おおむね1日あたり4時間以上残業すると、960時間を超えてしまう計算です。
上限の取り決めによって全体の労働時間が短くなれば、その分ドライバー1人あたりの運転できる時間も減り、走行距離も短くなります。
たとえば時速55㎞のペースで1日走行した場合の距離をシミュレーションしてみましょう。その際に全体の労働時間が11時間(残業3時間)の場合と、稼働時間が13時間(残業4時間以上)した場合では、合計で100kmほどの差が生まれます。
待機時間などもあるため、実際の走行時間は6.5hほどが現実的ですが、それでもやはり規制の前後で走行距離に差が生まれるでしょう。したがって運送会社や荷主は、2024年問題後も円滑に配送ができるよう対策する必要があります。
長距離輸送の受注を減らさなければいけない
時間外労働時間の上限取り決めによって、これまで1人のドライバーで対応していた長距離輸送を、2人で担当する必要が出てきました。そのためドライバーの人数が足りていない運送会社は、新たに人材を確保しなければなりません。
しかし、ドライバー不足が課題となっている昨今において、新たな人材を確保することは簡単ではないでしょう。運送会社によっては、人材の確保ができないことを理由に、輸送距離を短くすることが予想されます。輸送距離を減らす会社が増えれば、長距離輸送の受注数も減り、売上や利益の減少にもつながるでしょう。
また、長距離輸送を受注できる運送企業が減れば、荷主にとっても、必要なときに輸送を依頼できないなどの悪影響が考えられます。
長距離輸送のドライバーの収入減につながる
時間外労働時間が年間960時間を超えるドライバーは、上限の取り決めによって残業時間が減るため、その分収入の減少が懸念されています。
また、年間960時間未満のドライバーであっても、月に60時間を超える場合は、同様に収入減少のリスクがあります。
なぜなら、2024年の4月から月60時間以上の残業に対して割増賃金率が50%になるからです。これは一見すると収入が増えるように思われますが、企業側の負担が大きくなることから、今後はなるべく時間外労働を減らす動きが想定されます。
場合によっては以前よりも残業時間が減るため、結果的に収入の減少が考えられるのです。
また、現状でも配送にかかった燃料や高速代といった経費が引かれてドライバーの手元に入るケースが多いため、会社側も待遇や給与体系の見直しを迫られるでしょう。
トラックドライバーの年間所得額は全産業平均と比較して、大型トラック運転手で約5%低く、中小型トラック運転手で約12%低いといわれています。荷主の協力も得た待遇改善や給与体系の見直しが求められています。
参考:
公益社団法人 日本トラック協会「トラック運送業界の2024年問題」
連続運転時の運転の中断の取り扱いが休憩のみになる
新たな改正では連続運転時間の上限(4時間)に変更が無いものの、運転の中断に関する取り扱いが変わります。
これまでは4時間以上運転する場合、中断時間の取り扱いはあくまでも「ドライバーが運転しない時間」のみが該当するため、荷積みなどの作業をしても問題ありませんでした。
しかし、改正後は「原則休憩」のみに変わるため、この間の時間は必ず休憩する必要があります。なお、中断の時間は1回10分以上で合計30分必要です。また、10分未満の中断が3回以上続かないよう休憩する必要があります。
休息時間が増える
新たな制度として、終業時間から次の始業時間までに一定時間以上の休息時間を設ける「勤務間インターバル」が導入されます。
休息時間(インターバルの時間)は、最低9時間以上の確保、努力目標として11時間以上としているため、ドライバーは時間外労働と同様に稼働時間の制限が想定されます。
このことも、長距離輸送の難しさに拍車をかけるであろうことが予想されます。これまでと同じように物流量を維持するためには、配送方法の見直しや新規ドライバーの確保が求められるでしょう。
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2024年問題は、運送会社やドライバーといった物流会社だけでなく、関連する事業会社にも影響があります。ここでは物流関連企業に起きる影響や課題を解説します。
場合によっては対策が必要になるため、それぞれ確認してみてください。
ドライバーの人手不足に拍車がかかる
ここまで解説した通り、時間外労働の上限規制や勤務間インターバルの導入によって、1日あたりの労働時間が減り、走行距離の短縮が懸念されています。
加えて、オンラインショッピングをはじめ物流需要の高まりによって、現状でも課題となっている人手不足がさらに深刻化する可能性も考えられます。
今後、これまで5人で対応できていた業務でも、6人・7人でないと対応できないケースが増えてくるでしょう。そのため、運送会社は新たなドライバーの確保が必須です。
また、収入が減る可能性もあるなか、待遇の悪化や業務負担が増える状況が続けば、離職のリスクも高まります。したがって新規ドライバーの採用とともに、待遇改善や給与の見直しなど離職を防ぐ環境づくりも求められるでしょう。
物流会社への支払いが増加する
ドライバーの制限増加や待遇改善による人件費高騰を背景に、物流会社の売上が減る可能性が考えられます。その際は、利益確保のために運賃を値上げせざるを得ません。
また、M&Aキャピタルパートナーズ株式会社の調査では、すでに物価上昇や燃料費の高騰を背景に値上げ交渉を行なっている物流企業が存在し、その割合は半数以上となっています。
なお、今後値上げを検討している企業は約20%ほど、今後行う可能性を検討中の企業も7割ほどとなっているため、運賃の値上げは業界全体で行われる見込みといえます。
高速道路の利用が増える
長距離輸送にあたって、高速道路の利用は欠かせません。これまでは荷物を載せている時のみ利用するケースもありましたが、運転時間の短縮や業務効率化を目的に、高速道路の利用数の増加が考えられます。
そのため高速代による輸送コストの上昇が考えられますが、移動時間の短縮にはつながるでしょう。
また新東名高速道路の自動運転車専用レーンの設置など、各所でも高速道路の利用増に向けた取り組みが進められています。
これまでよりも配送に時間が必要になる
働き方改革関連法によって残業や休憩時間など、労働時間に関する制限が細かく規定されることで、配送に必要な全体の時間がこれまでよりも長くなることが考えられます。そのため、納品までの時間や配送フローの見直しが必要になるでしょう。
特に生鮮食品のように納品期限が限られていて品質管理が求められる配送は、ドライバーの割り当てや配送方法の検討が求められます。
売上や利益の減少
運送業や物流業は、働く人の労働力に依存する業務が多い「労働集約型産業」のビジネスモデルです。運送業の収益の源泉はドライバーによる商品の輸送です。
改正によってドライバーの稼働時間が減ることで、会社全体の稼働時間や業務量が少なくなり、利益や売上の減少も見込まれます。また、人手不足や稼働時間の制限により、これまでよりも納品に時間がかかり、運べる荷物の量の制限も懸念されています。
この影響は物流会社だけでなく、輸送を依頼する荷主側も同様です。たとえば運賃の上昇や依頼可能な荷物量の減少などが考えられるでしょう。
改正後も今までと同じような業務量や利益を得るためには、以下のような取り組みが必要になるでしょう。
- 既存ドライバーの離職を防ぐための待遇改善や給与アップの取り組み
- 新規ドライバーの確保
- 効率的に配送するための輸送方法や輸送ルートの工夫
2024年問題の後も効率よく長距離配送を行うためにできること
ここでは2024年問題が起きた後も効率よく長距離輸送を行うための対策方法を紹介します。いずれも物流会社と荷主事業者が協力して取り組む必要があります。
2人以上(複数人)で配送を行う中継輸送
中継輸送とは、運行ルート上に中継地点を設けて他の運転者と交代する輸送方法です。これまで1人で行っていた長距離輸送を、複数人のドライバーで受け持つことで、一人あたりの負担を軽減する効果が期待されています。
また、長距離輸送でも中継点単位での運送で済むため、ドライバーが日帰りで勤務しやすい点も特徴です。
中継輸送の方法としてはドライバー交代方式、トラック・トレーラー方式、貨物積みかえ方式の3パターンがあります。それぞれの特徴や具体的な方法は以下の通りです。
項目 | 具体的な方法 | 特徴 |
ドライバー交代方式 | 中継地点で合流して、 トラックを乗り換える方法 |
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トラック・トレーラー方式 | 貨物はそのまま、 トラクターヘッドを交換する方法 |
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貨物積みかえ方式 | 中継地点で貨物を積みかえる方法 |
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鉄道輸送などのモーダルシフトの導入
モーダルシフトとは、トラック等の自動車による貨物輸送だけでなく、より環境への負荷が少ない鉄道や船舶も利用する輸送方法です。
たとえばトラックで鉄道の転換拠点へ荷物を運び、そこから鉄道に乗せ換えて最寄りの転換拠点まで輸送、そこから最終配送先までをトラックで運ぶことによって、トラックによる輸送距離の削減が可能です。
また、モーダルシフトのメリットとしては主に以下の3点があげられます。
- 中継輸送と同様に各ドライバーが最寄りの転換拠点までの輸送で済む
- 渋滞など交通状況に左右されにくい
- 国土交通省が推進事業として取り組みの強化を掲げている
なお、経済産業省の調査によると、2022年時点の日本の国内貨物の輸送内訳は、自動車が約50%、内航船が約40%、鉄道輸送は5%程度となっています。
鉄道による輸送ではJRコンテナを利用することが一般的です。発地側でコンテナに貨物を積み込み、トラックでJR貨物のターミナルまで輸送。コンテナを積み替え、着地側のJR貨物のターミナルまで鉄道輸送します。その後、再びトラックに積み替え納品先まで輸送します。
共同配送
共同配送とは、複数の企業の荷物をまとめて1台のトラックで運ぶことで積載率を上げる方法です。地方や山間部などエリアによっては配送物が少ない場合、まとめて送ることで人件費や配送コストを抑えることができます。
また、ドライバーは集荷を行う企業ごとに休憩をとることで連続運転を軽減でき、輸送方面と最終目的地が同じであれば、まとめて運ぶことが可能です。ただし共同配送を行うためには、配送業者間の連携が必要不可欠となります。
共同配送は、加工食品業界や飲料業界などで活用されている配送方法です。各々の荷主が個別に配送するよりも積載率を向上させることができ、ドライバーやトラックを効率的に運用できる方法です。
荷待ち・荷役時間の削減
上記の表は、国土交通省が公表している、トラックドライバーの荷待ち時間に関わるデータです。
荷待ち時間がない場合とある場合を比較すると、1日の拘束時間が2時間ほど異なることがわかります。また、荷待ち時間の割合として、2時間以上が全体の約3割、1時間以上が全体の約5割を占める結果となっています。
荷待ち時間は、トラックドライバーの長時間労働の要因として考えられており、厚生労働省でも荷待ち時間削減のために「荷主特別対策チーム」が編成されています。
また、荷待ち時間の削減は輸送会社だけでなく、荷主を含め業界全体が取り組むべき課題として環境整備が求められています。
パレットの利用
荷役の時間を短縮するためには、フォークリフトによって一括で積み下ろしが可能なパレットの利用が有効です。特にこれまで手荷役だった場合、荷物の積み降ろしに時間がかかるだけでなく、肉体労働の面でも体に負担もかかるため、大幅に軽減できるでしょう。
なお、パレットの導入には荷主企業側の協力が不可欠です。運送会社だけでなく荷主企業も含めて、取り扱いのルール化や時間短縮といったそれぞれのメリットを共有し、パレットの利用に向けた取り組みが求められるでしょう。
トラックドライバーの長時間労働の一因として手荷役はドライバーの負荷も高く、積み下ろしに数時間を要する重労働です。パレットを利用せずトラックの荷台に貨物を直接積みつけるばら積み輸送は、運送会社から避けられる傾向にあり、荷主企業の早急な対応が必要となっています。
300km圏内に中継基地を設ける
トラックドライバーの1日あたりの走行時間は、時間外労働の時間を含めても待機時間があるため、6.5hぐらいとなります。その時間であれば、走行できる距離としては300km程度が現実的といえるでしょう。
そのため、改正後の長距離輸送には、中継基地の設置が不可欠となります。250~300kmの圏内ですと、中継輸送がしやすく、ドライバーの休息も無理なくとりやすいでしょう。
まとめ
2024年問題に備えて、物流会社はこれまで以上に、輸送の効率化を図る必要があります。
効率化の方法としては、中継輸送やモーダルシフトの導入が注目されています。さらに共同配送やパレットの利用によっても配送の効率化が可能です。
効率化のための取り組みは、運送会社だけでなく、荷主企業や他社との協力が必須となるため、運送業界全体の課題として対策を進めていきましょう。
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