商品や原材料などの現物が実際に倉庫内に存在する状態を「実在庫」と呼ぶのに対し、「理論在庫」というものがあります。理論在庫とは、商品の入庫数や出荷数などをもとにして算出される、データ上の在庫のことです。
実在庫と理論在庫は、在庫処理のタイミングやヒューマンエラーなどによって、リアルタイムに連動しないケースも珍しくありません。しかし、適正な在庫管理のためには、理論在庫と実在庫の差異を最小限に抑えることが大切です。
この記事では、理論在庫と実在庫に差異が生じてしまう原因やそのリスク、差異の発生を防ぐための対策を解説します。
■この記事でわかること
- 理論在庫の概要
- 理論在庫と実在庫の差異が出てしまう原因
- 理論在庫と実在庫の差を小さくするための対策
目次
理論在庫とは
入出庫情報による帳簿の上での在庫のこと
理論在庫とは、仕入れ数や売上数などから算出される、入出庫情報をもとにした帳簿上の在庫のことです。
理論在庫は帳簿在庫や伝票在庫とも呼ばれ、「在庫としてあるはずの数」を表したデータ上の在庫を意味します。実在庫と理論在庫の数が合えば、在庫管理が問題なく行われていると判断が可能です。
しかし、実際には倉庫での在庫計上のタイムラグや在庫移動、在庫データの更新タイミングなどによって、実在庫と理論在庫の差異が起こることは多々あります。こうした差異は棚卸差異と呼ばれ、過剰在庫や欠品の原因になるため、発生理由の確認が必要です。
実在庫との違い
実在庫とは、倉庫などの保管場所に現物がある在庫のことを指します。納品書や発注書などデータ上での数ではなく、目視で確認できる実際の数が実在庫です。
在庫管理が適切に行われている場合、実在庫と理論在庫の数量は一致します。上述のとおり、実在庫と理論在庫は、倉庫のオペレーションや倉庫管理システムのデータ更新タイミングによって、必ずしもリアルタイムで一致しない場合も珍しくありません。不一致が発生した場合には、なぜ差異が起きたのか原因を調査・究明する必要があります。
理論在庫と実在庫の差異が出てしまう原因
本来なら理論在庫と実在庫は一致するはずですが、現実には在庫処理のタイムラグや人的ミスなどの理由から、それぞれの数に差異が出ることもあります。理論在庫と実在庫が合わなくなってしまう原因を詳しく見てみましょう。
人為的な作業ミス
理論在庫と実在庫の差異が発生する原因として、ヒューマンエラーが挙げられます。数多くの多種多様なアイテムを扱う倉庫では、人為的なミスを完全になくすことはなかなか難しいでしょう。ありがちな作業ミスとして以下のようなケースが挙げられます。
- 入出庫時の伝票の誤差
- 各工程での数量の確認ミス
- 細かなデータの入力ミスや読み取りエラー、二重読み取り
- 返品時の記帳ミスや入力漏れ など
また、現場スタッフが商品の保管場所を間違えて長期間放置してしまったような場合も、在庫数に差異が生まれる原因の一つです。
在庫管理ルールが曖昧・煩雑
在庫管理ルールが曖昧だったり煩雑だったりする場合は、入出庫データが正確に反映されにくくなります。その結果、理論在庫と実在庫の差異が発生し、棚卸差異率が高くなる可能性があるでしょう。ルールが曖昧・煩雑だと作業が属人的になりやすいだけでなく、新たなスタッフを教育する際にも不便です。
この事態を防ぐためには、入出庫に関わる現場の関係者全員が在庫管理のルールを理解し、誰もが問題なく実行できるようにする必要があります。倉庫の管理者は、在庫管理のルールや指導体制が最適化されているか定期的に検証したうえで、適宜ブラッシュアップしていきましょう。
在庫処理におけるタイムラグ
半年毎や四半期毎の会計期に行う棚卸では、棚卸のタイミングと入出庫で商品が動くタイミングでラグが生じ、理想在庫との差異につながることがあります。これが棚卸差異として、エラーの原因となってしまう可能性もゼロではありません。
在庫処理のタイムラグによる差異を避けるためには、棚卸資産を確定するタイミングで入出庫や商品の移動を一時的に停止するのも一つの方法です。また、在庫管理者と財務・経理担当者とのあいだで綿密に情報交換を行い、数量の整合性を高めておく必要があります。
サンプルやモニターへの提供など、イレギュラーな出荷業務があったときも在庫データの更新にタイムラグが発生する場合があるため、こまめな情報共有を徹底しましょう。
棚卸作業時のミス
倉庫内の実際の在庫と理論在庫を突き合わせる棚卸業務でも、ミスは発生します。棚卸すべき商品に気づかず見逃してしまったり、バーコードリーダーなどで同じ商品を二度スキャンしていることに気がつかなかったりするケースです。
棚卸は膨大な作業量になりやすく、少しのミスが積み重なってしまうこともあり得ます。結果として、実在庫のデータにズレが生じ、理想在庫とのあいだに大きな差異が生まれることになりかねません。
こうしたミスを防ぐためには、2人1組体制で棚卸作業のダブルチェックを行うことが有効です。また、棚卸対象の商品や保管場所のリストをあらかじめ出力しておくことも、抜け漏れ対策として効果的でしょう。
紛失・盗難
紛失や盗難も、理論在庫と実在庫の差異を発生させる原因の一つです。倉庫に出入りする関係者が、軽い気持ちで商品を持ち出して私物化したり、そのまま紛失したりする可能性があります。なかには、転売のために高額な商品が盗難に遭うことも考えられるでしょう。
悪質な意図がなくとも、スタッフが倉庫内を移動する過程で商品を紛失してしまう恐れもあります。このような紛失、盗難リスクを予防するためには、倉庫内への監視カメラの設置などを検討してみてください。
受注から出荷までのプロセスで、ExcelやFaxを利用した属人的な管理を行う場合も、エラーが起こりやすく、理論在庫と実在庫に差異が発生する要因になり得ます。
在庫管理の川上や川下のプロセスでも在庫差異が発生する要因がないか、確認してみてください。
理論在庫と実在庫の差異によるリスク
理論在庫と実在庫に差異がある場合、欠品や余剰在庫を生むことになります。差異が生まれた原因を究明するための労力・コストを割かなければならないだけでなく、販売機会の損失による売上減少や顧客満足度にもマイナスの影響が考えられるでしょう。
ここからは、理論在庫と実在庫に差異がある状態のリスクを解説します。
売上の減少
実在庫に対して理論在庫が少ない場合、現物の在庫を多く抱えていることになります。こうした理論在庫と一致しない在庫は、余剰在庫としてコスト面での悪影響を及ぼしかねません。例えば、倉庫スペースを占有して長期間保管することによる保管費用や管理コスト、品質が劣化した場合などの廃棄コストの発生が考えられます。本来であれば必要のない業務を担うための人件費もかかるでしょう。
また、理論在庫としてデータが存在しないことから、本来販売できるはずの商品を販売できなくなってしまう点も大きなデメリットです。顧客への販売機会損失は、売上の減少に直結します。
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余剰在庫とは?余剰在庫のリスクと削減方法を解説顧客満足度の低下
EC販売では、実在庫に対して理論在庫が多くなるケースがあります。商品の出荷などの移動結果が、リアルタイムで在庫データに反映されていないことが主な原因です。
こうしたケースでは、顧客の発注や商品購入後に、欠品が発覚するケースが想定されます。その結果、注文のキャンセルが発生したり、新たな商品が入荷するまで時間がかかったりするため、顧客満足度の低下を招く場合があるでしょう。
既存の顧客が離れるだけでなく、口コミなどが広まり新規顧客獲得にも影響し、販売機会損失につながる恐れがあります。EC販売では特に、リアルタイムなデータを反映したうえでの適切な在庫管理が大切です。
理論在庫と実在庫の数量に差異があると、棚卸の作業に時間がかかったり、差異の原因を確認するために負荷がかかります。四半期や半期ごとに行う棚卸しでは会計監査上のリスク事項にもつながります。
理論在庫と実在庫の差を小さくするための対策
理論在庫と実在庫の差異発生を防ぐには、以下のような対策が必要です。
- 在庫管理システムを活用する
- 管理におけるルールの設定・見直し
- 定期的な棚卸の実施
- 棚卸方法の見直し
- セキュリティの強化
順に詳しく解説します。
在庫管理システムを活用する
実在庫を正確に把握して理論在庫との差異を防ぐには、ヒューマンエラーを削減するとともに、精度の高い在庫管理の仕組みを整えることが重要になります。そのためには、在庫管理の精度向上と効率化に役立つ「在庫管理システム」の活用がおすすめです。
在庫管理システムには、入庫や保管、ピッキング、出荷の工程でバーコード・スマホ・タブレット・RFIDなどを用い、品物をスキャンして管理する機能があります。属人的な対応によるヒューマンエラーを減らすためにも、システムの導入と自動化は有効です。
また、リアルタイムで商品の動きを追跡し、在庫データをシステムへ反映できることから、タイムラグによる理論在庫と実在庫の差異を減らすのにも貢献するでしょう。
管理におけるルールの設定・見直し
現場の作業が煩雑化している、属人的になっているという場合、マニュアルやルールの見直しや標準化が必要になります。
在庫管理に関する既存のマニュアルやルールがある場合でも、作業スタッフが長期的に固定化すると、実際の手順や方法は属人的になりやすいものです。場合によってはスタッフ各自で異なる手順で作業を進めてしまい、処理にエラーが生まれる事態を招くでしょう。
また、スタッフの定着率が悪い現場の場合、曖昧なルールは周知徹底されにくくなる可能性もあります。在庫管理責任者は定期的にルールを見直し、トラブル発生時の指示系統まで明確にしておくことが大切です。
マニュアルの作成と更新に加えて、ルールの見える化と簡素化を行い、スタッフへの徹底・浸透を意識しましょう。
定期的な棚卸の実施
理論在庫と実在庫の差を小さくし、在庫データの精度を維持するためには、定期的な棚卸が有効です。例えば、その日に動いた入出庫の数量をその日のうちに確認する「日次棚卸」という方法があります。
日次棚卸は1日の終わりに行うため、ルーティン作業として組み込むことが可能です。こまめな在庫確認により、伝票の誤記入や登録の漏れなど、棚卸差異につながる要因をすみやかに発見できるでしょう。この作業を継続することで、1日の品物の動きを確実に把握しながら、棚卸差異の発生を抑えることにつながります。
棚卸方法の見直し
管理ルールの見直しや定期的な棚卸の実施などの対策を行っても、理論在庫と実在庫に大きな差異が発生してしまうという場合、棚卸方法の見直しが必要かもしれません。棚卸差異率は5%以内に収まるのが望ましいとされており、±10%以上ある場合、企業の経営に問題が出てくるといわれています。
棚卸作業の改善案として考えられるのが、棚卸の間隔を短くする方法です。棚卸差異やミスの原因にいち早く気づくことで、差異の拡大を防止しやすくなるでしょう。
年に1回または半年に1回に行っていた棚卸作業の間隔を四半期に1回、ないしは1〜2ヶ月に1回実施することを検討してみてください。
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棚卸しのやり方は?スムーズに行うポイントを解説セキュリティの強化
在庫差異の一因である商品の紛失・盗難を防ぐ対策としては、セキュリティの強化が有効です。具体的には、倉庫の建屋や保管庫への入退室管理の徹底、フェンスの設置、監視カメラ・指紋認証システムなどの導入による監視体制の強化などがあります。データ上で在庫情報や顧客情報などを管理している場合には、情報漏洩が起こらないようネットワークセキュリティにも留意しなければなりません。
また、現場スタッフの意識改革を図ることも大切です。安価な商品を一つ持ち帰るだけでも窃盗罪になりうる旨を、スタッフ全員にきちんと注意喚起しましょう。
理論在庫と実在庫の差異を防ぐためには、在庫管理システムや倉庫管理システムを活用するとよいでしょう。不良品や返品された商品などのロケーション管理やステータス管理をしっかり行うことが差異を防ぐことにつながります。
まとめ
理論在庫とは、本来あるべきデータ上の在庫であり帳簿上の在庫です。倉庫内に実際に保管してある実在庫の数値と理想在庫とのあいだに差異が生じると、売上減少や顧客満足度の低下といったさまざまなリスクが発生します。
差異の発生を防ぐためには、在庫管理システムの導入や在庫管理ルールの標準化、棚卸方法の見直しなどといった対策が効果的です。
また、こまめに棚卸を実施する、監視体制を強化するといった案もありますが、人件費や機器の導入費をデメリットに感じることもあるかもしれません。その場合、在庫管理を含めた物流のアウトソーシングを検討するのも一案です。
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