物流は、経済活動を支える重要な社会インフラの一つです。一方で、昨今の日本の物流領域では、少子高齢化や物流に関わる担い手の減少などによって、人手不足が顕著になっています。EC市場の拡大とともに宅配便の総量が増えているなか、どのようにして人材不足を解決するかが大きな課題となるでしょう。
この記事では、物流業界における人手不足の現状や原因、解決の糸口となりうる対処法を解説します。
■この記事でわかること
- 物流業界の人手不足の現状
- 物流業界の人手不足の原因
- 物流業界の人手不足の対策
目次
物流の人手不足の現状
EC市場の成長によって、宅配便の物量は年々増加傾向にあります。国土交通省が発表した「令和3年度 宅配便取扱実績について」によると、令和3年度の宅配便取扱個数は49 億5323 万個と、対前年度比で約2.4%の増加となりました。
一方、貨物の増加に対してトラックドライバーは不足しており、求職者よりも求人数が多い状態です。厚生労働省「統計からみるトラック運転者の仕事」によると、令和2年度〜4年度にかけてトラックドライバーの有効求人倍率は約2倍あたりで推移し、求人数に対して必要なリソースを満たしていないことが伺えるでしょう。
さらにドライバーの高齢化が進み、若年層の担い手は少ない状況が続いています。同資料によるとトラック業界で働く人のうち、約45%を占めるのが40~54歳となっており、29歳以下の若年層は全体の10%ほどです。ボリュームゾーンである40~54歳が高齢化して物流業界からの離脱することで、さらなる人手不足が想定されます。
加えて人手不足に輪をかけるのが、2024年4月からの働き方改革関連法の施行であり、いわゆる「物流の2024年問題」です。ドライバー1人あたりの時間外労働時間の上限が年間960時間に制限されることで輸送手段が不足し、物を運ぶことが困難になるでしょう。
これらの複雑な要因が絡まり、物流業界は人手不足の状態にあります。
大手宅配便の一部区間では翌日配送を翌々日配送に変更するなどサービス内容の変更が実施されています。
物流の人手不足の原因
物流業界が人手不足となっている原因として、大きく以下の4つが挙げられます。
- 少子高齢化
- 低賃金
- 長時間労働
- 物流業界・業務へのマイナスイメージ
順に詳しく見てみましょう。
少子高齢化
日本の出生率は今後も減少していくことが予想され、急速な少子高齢化が進行しています。これに伴い、15〜64歳の生産年齢人口(就業者と失業者を含む働ける人の数)も減少するでしょう。
2065年の生産年齢人口の予想は約4,500万人となっており、2020年と比べて45年間で約2,900万人減少する見通しです。その内訳として、2065年では65歳以上の老年人口が約4割、生産年齢人口は約5割になると推測されています(※)。
物流業界は他業界に比べて従事する人たちの年齢層が高い傾向にあり、若年層の人材獲得が困難であることと相まって、より人手不足は進行していくでしょう。
給与が安い・低賃金
物流業界は、長時間にわたる長距離の運転や重い荷物を運搬したり積み込んだりするハードワークであるにも関わらず、給与が低い傾向にあります。物流業界の若年層は他業界に遜色ない給与水準となっていますが、上昇幅はあまり大きくありません。実際に、子どもの教育費や住宅ローンの返済などがかさむ40歳以上になると、国内平均を下回ってしまうのが実情です。
満足のできる給与を受け取れないことで働き盛りといわれる年代の離職につながり、さらに高齢化が進む要因ともなっています。
長時間労働
物流業界で長時間労働が常態化していたことも、人手不足の要因の一つです。全産業の年間平均労働時間は2,112時間であるのに対し、大型トラックのドライバーは平均2,544時間、中小型トラックのドライバーは2,484時間となっています(※)。
国土交通省の調査「最近の物流政策について」によると、トラックドライバーの労働時間は全職業平均より約2割長いという結果になりました。長時間労働は、トラックドライバーとして主に働く中高年層にとって大きな負担となり、家庭と仕事のワークライフバランスの実現も遠のきます。若年層にとってもプライベートの時間を確保しにくい職場は、就職や転職の選択肢から外されてしまいやすいでしょう。
※トラック運転者の年間労働時間の推移(統計からみるトラック運転者の仕事)|国土交通省
物流業界・業務へのマイナスイメージ
物流業界全体や物流業務に対するネガティブなイメージも、人手不足の要因です。オフィスで従事する営業職や人事、経理などのバックオフィスの仕事に比べ、物流に携わる方の働く環境は必ずしもきれいではないこともあります。また、重い荷物を運ぶため肉体的な負担が大きいというイメージを持つ方も珍しくありません。
ドライバーの場合、交通事故などのリスクに面していることや長時間労働、夜間の労働で休暇を取りづらいといったイメージを持たれがちです。加えて、物流業界は男性社会で女性の労働者が少なく、働きにくそうといった先入観も影響しています。
物流の人手不足の対処法
上述した原因をふまえたうえで、物流業界の人手不足への対策として下記の4つの方法が考えられます。
- 物流業務の効率化と生産性の向上
- 輸配送業務における対処
- 従業員やスタッフの労働環境の見直しと改善
- 求人内容や採用活動の見直し
従業員にとって働きやすい環境を整えることで定着率を上げるほか、物流業務の生産性アップに寄与するシステムを活用するのも一案です。
物流業務の効率化と生産性向上
WMSなど物流システムを活用する
物流の現場ではいまだに属人的な作業が残っていることも多く、従事する人たちの負担となっています。生産性の向上のためには、業務プロセスをシステム化し、自動化や省人化を進めることが有効です。
例えば、WMS(倉庫管理システム)を導入することで入出庫や保管、ピッキングなどの工程をデジタルで一元的に管理できます。また、TMS(輸配送管理システム)を導入すれば、配送状況や荷物の現在地を可視化でき、属人化していたアナログな業務の効率化を図ることが可能です。こうしたシステムの活用によって、人材の不足した現場でも物流業務の品質向上を目指せるでしょう。
浜松委托運送では独自のシステムを利用し、お客様ごとに物流フローを構築しています。さらに、バーコード管理による正確性の高い在庫管理により出荷ミスを予防し、高品質な物流業務の実現に取り組んでいます。
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属人的な単純作業を物流ロボットに代替させることも、作業スタッフの業務負担を減らすのに効果的です。特に倉庫においては、スタッフの歩行距離と歩数を削減し、入出庫やピッキングの作業時間を短縮しつつ負荷を軽くする必要があります。
この場合、貨物の搬送をサポートするAGV(無人搬送車)や、周囲の人・物を察知して走行するAMR(自律走行搬送ロボット)などを活用して、肉体労働的な単純作業を代替させると良いでしょう。さらに、ロボットが商品のある棚をスタッフのもとに運んでくるGTP(Goods To Person)といったシステムで、省人化・省力化を実現できます。
輸配送業務における対処
モーダルシフトの導入
モーダルシフトとは、トラックなど二酸化炭素排出量の多い輸送手段を、環境負荷の少ない鉄道や船舶の利用に転換する取り組みのことです。JRコンテナによる鉄道輸送やフェリーによる輸送は、1回あたりの輸送量が大きく、トラックと比べると少ない人手で輸送できます。また長距離輸送にも適しているなど、環境面への配慮と同時に人手不足対策にも有効な手段です。
浜松委托運送では、JRコンテナを活用して輸送を行い、環境対策・人手不足の双方に対応しています。
共同配送の導入
共同配送とは、異なる荷主の荷物を一つの物流センターにまとめてから、同一エリアや納品先に配送することです。これまで共同配送は食品や飲料業界など一部の業界で導入されていましたが、まだまだ限定的でした。実施することでトラック1台あたりの積載率が向上し、無駄がなくなるため効率的に配送できます。
荷主ごとに異なって手配されていたトラックをエリア・納品先ごとにまとめられるため、少ないドライバーで対応が可能です。さらに出荷や納品先の荷受けの頻度が減少することから、現場スタッフの負担を減らせるメリットもあります。
輸送量の増強のため、トラックの後ろにもう1台、荷台をつなげた「ダブル連結トラック」の導入も進み、走行可能な高速道路も増えています。
従業員やスタッフの労働環境の見直しと改善
物流業界の人手不足を解決するには、従業員やスタッフの労働環境・働き方の改善が必要です。現在はフレックス制や時短勤務、時差出勤、リモートワークなど、柔軟な働き方が求められています。育児や介護と仕事を両立したい人や、ワークライフバランスを重要視したい人にも応えられるような制度作りが大切になるでしょう。
社内託児所の導入や休暇・賞与の追加、給与アップなどの施策で労働環境を改善することで、これまでの物流業界に対するイメージを払拭することにつながります。
求人内容や採用活動の見直し
物流業界への応募の母数拡大を図るためは、企業が発信する求人内容の見直しも必要となるでしょう。場合によっては、これまで利用していた募集媒体の変更や追加、採用対象の拡大も必要になるかもしれません。
ハローワークやタウン誌、折込チラシによる募集をWEB求人サイトなどに変更すれば、従来とは異なる層にもアプローチできるようになります。幅広い年齢層の方や女性、外国人労働者に対して間口を広げることも可能です。それと同時に、物流業界により興味を持ってもらえるよう、業務内容や仕事の魅力、やりがいを発信するのも良いでしょう。
物流の人手不足に対しては、省人化や自動化、DXの推進が必須です。手積みや荷卸しなど、属人的でドライバーの負荷が高い作業についても、パレットに貨物を積載するパレタイズの促進が必要でしょう。
まとめ
物流業界の人手不足は、経済のインフラ維持や私たちの生活に直結する課題です。EC市場の拡大により物流量は増加していますが、物流の担い手は不足しており、さらに2024年問題で長距離輸送が困難になるケースも想定されます。
これに対し、労働環境を見直して働きやすい職場を目指すなど、物流業界へのネガティブなイメージを払拭する取り組みが必要です。また、WMSや物流ロボットの導入によって従業員の負担を減らしたり、モーダルシフト・共同配送を取り入れて輸送効率を上げたりといった対策も検討しましょう。
浜松委托運送は、日本の中心である浜松に位置しているため、長距離輸送が困難なケースに関しても対応が可能です。物流業務における人手不足や輸配送のお悩みを抱えている方は、浜松委托運送へぜひご相談ください。
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