在庫金利とは、在庫を抱えるうえで発生する資金負担を金利に置き換えて考えた理論上の指標であり、実際に支払うコストではありません。管理会計上の金利ともとらえることができ、商品の売れやすさ・売れにくさに関係なく発生するものです。
本記事では、在庫金利の計算方法や算出するメリット、在庫管理を考える際の注意点を解説します。物流業務において倉庫のコスト管理に携わる方は、ぜひ参考にしてみてください。
■この記事でわかること
- 在庫金利の計算方法
- 在庫金利を算出するメリット
- 在庫金利を考える際の注意点
目次
在庫金利とは
在庫金利とは、理論上・会計上の指標を意味しており、実際に支払うべきコストではありません。商品の売れ行きの良し悪しに関係なく発生するもので、架空の金利ともいえます。
在庫金利を明らかにする目的は、在庫を抱えることで生じる借入金や資本金などのさまざまなコストを指標化するためです。何にどれくらいのコストがかかっているのか数値として算出することで、先を見越した適切な在庫管理が実現できるでしょう。
在庫金利の計算方法
在庫金利の計算方法は、一般的に「加重平均資本コスト」を指標として算出します。加重平均資本コストとは、資金を1円調達するためにどれだけの費用がかかるのかを示すもので、負債コストと株式資本コストを加重平均した数値を算出し求めることが可能です。場合によっては、倉庫の保持にかかる費用や人件費なども含めるケースもあります。
加重平均コストの計算式は以下のとおりです。
※D:負債総額、E:株式の時価総額(=株価×発行済み株式数または株主資本)、rD:負債コスト、rE:株主資本コスト
さらに細かく計算する場合は、保管費用や商品評価損、返品費用なども含める必要があります。
負債コストとは、企業が事業を行うための資金調達に伴うコストのうち、債権者から調達した負債に対するコストのことです。株主資本コストとは、企業が事業を行うにあたって調達した資金にかかるコストのうち、株主から出資を受けて調達した資本に対するコストのことです。
在庫金利を算出するメリット
在庫金利を算出するメリットは、以下の3つです。
- 在庫コストの見える化・課題の顕在化ができる
- 在庫調達・在庫管理・生産活動の最適化を行える
- 在庫コストの内訳を把握できる
順に詳しく解説します。
在庫コストの見える化・課題の顕在化ができる
在庫金利を算出することで在庫コストが見える化できると、課題が顕在化します。在庫量であれば、棚卸しによって正確に把握が可能です。しかし、在庫にかかる全体的なコストは、在庫の金額だけでは把握できません。
在庫には目に見えない維持費などの経費もかかっており、在庫金利として積み重なっているものです。在庫金利を算出し在庫コストを可視化することにより、過剰在庫や廃棄在庫の量、保有コストの増加など、今まで見えなかった現状を把握できます。
在庫調達・在庫管理・生産活動の最適化を行える
在庫金利が明らかになると、その指標をもとに在庫の調達や管理、製造において、企業の利益が最適になるように調整しやすくなります。
例えば、どこから在庫を調達するのが最適なのか、在庫はどこでどのように保管するのが最適か、最適な製造場所はどこかなど、複数の工程において最適化を目指すことが可能です。結果として、在庫にかかるコストにも変化を見込めるでしょう。
在庫コストの内訳を把握できる
在庫金利として架空の金利を算出することで、在庫にかかるコストの内訳を把握できます。在庫コストの内訳として挙げられるものの例は、以下のとおりです。
項目 | 詳細 |
---|---|
在庫購入・資金調達コスト | 借り入れ後の利息の支払いに株主資本コストを加えた費用 |
保管費用 | 在庫保管のために倉庫に関わる費用 |
商品評価損 | 仕入れ時よりも在庫の価値が下がった場合に発生する費用 |
価格補償費 | 小売店が値下げ販売を行った場合に損失を補填するための費用 |
返品費用 | 商品が返品された場合に生じる輸送費など |
在庫コストのなかでイメージしやすいものとして、在庫を購入する際に借り入れを行なった場合の費用や、在庫を保管するためにかかる保管費用などがあります。ただし同じ保管費でも、自社倉庫なら人件費や光熱費、建設費の償却費用などの費用が発生するのに対し、外部倉庫では保管費や輸送費、入出庫費用がかかるのが大きな違いです。
ほかにも、仕入れ時より在庫の価値が下がった場合に発生する商品評価損や、販売後に返品があったときの輸送費なども、在庫を抱えるうえでかかるコストに挙げられます。こうした在庫コストの内訳を理解することで、適正在庫や自社の倉庫と外部の倉庫ではどちらが費用を抑えられるのかを判断できるでしょう。
商品評価損は、保管中の品質劣化や別の新商品が発売されたことによる価値の低下(陳腐化)を損失として算出したものです。棚卸をした時に算出することが多いです。
在庫金利を考える際の注意点
在庫金利を考える際は、以下2つの注意点を念頭に置いておきましょう。
- 加重平均コストよりも高めに設定すること
- 売上債権を忘れないこと
それぞれ詳しく解説します。
加重平均資本コストよりも高めに設定する
在庫を抱える場合、倉庫費用や棚卸資産減耗、商品評価損などの考慮が必要です。それらをふまえたうえで、在庫金利は加重平均資本コストよりやや高めに設定しておきます。
例えば加重平均資本コストを3.8%とした場合、在庫金利は4%程度が目安になるでしょう。実際に在庫金利を4%としたケースでの事業評価の例は、以下のとおりです。
・500万円の在庫を使って200万円の利益が出る場合
在庫金利=500万円×4%=20万円
・在庫金利を考慮してその事業の実質の利益を評価した場合
200万円-20万円=180万円
在庫の価値は仕入れたときから常に同じではなく、棚卸し時の評価価格が取得原価を下回ってしまうケースがあります。このため在庫金利の設定時には、在庫の商品評価損に関しても理解しておくと良いでしょう。
売上債権を忘れないこと
売上債権は、在庫金利のなかでも見落としやすい項目です。受取手形や売掛金などの総称である売上債権も、在庫コストの一種として考慮する必要があります。
売上債権によって売り上げが発生し出荷した場合、商品の在庫が手元になくても現金化されるまでに金利が発生しています。よって在庫金利を正確に把握するには、在庫量の確認のみならず、売上債権を徹底して管理しなければなりません。
まとめ
在庫金利とは理論上の指標、会計上の指標であり、実際に支払うコストではありません。一方で在庫コストの見える化に大いに役立つものであり、課題の顕在化や在庫調達・管理、生産活動の最適化を行うためにも算出しておく必要があります。
在庫金利は企業運営や財務戦略に大きな影響を与えるため、物流責任者だけではなく経営者や財務責任者にとっても重要な数値であると言えます。
自社で在庫金利を考えるのであれば、売上債権の計算と、加重平均コストよりも在庫金利を高めに設定しておくことを忘れないようにしましょう。在庫を抱えるなかでコストがかかりすぎてしまうなど、在庫管理や物流業務において課題を感じている場合には、アウトソーシングを検討するのも一つの方法です。
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